大阪高等裁判所 昭和54年(行コ)59号 判決 1980年8月27日
控訴人(原告) 治久丸正明
被控訴人(被告) 大阪府警察本部長
主文
原判決を取消す。
本件訴を却下する。
訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
事実
第一申立
一 控訴人
1 原判決中被控訴人に関する部分を取消す。
2 被控訴人が控訴人に対し昭和五三年二月二三日付でした通告はこれを取消す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二主張、証拠
当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に付加するほかは原判決事実摘示中通告処分取消請求に関する部分と同一であるから、これを引用する。
一 当審における被控訴人の主張
交通反則金制度における通告処分は、道路交通法(以下道交法という。)一二七条二項前段に該当する場合以外は告知を必ず前提とし、かつ告知があれば必ずなされるものであり、それ自体何ら独立して処分性のあるものではない。ことに本件のように告知後仮納付がされていると、通告は仮納付を本納付とみなす効果(道交法一二九条三項)をもつだけであり、反則金の納付を何ら義務づけるものではない。反則金納付後の救済は、反則金の返還の争に関し公法上の法律関係に関する当事者訴訟ないし不当利得返還請求訴訟によることができるので、本件通告処分を抗告訴訟の対象となる行政処分とみる必要はない。
二 当審における証拠関係<省略>
理由
一 被控訴人が控訴人に対し昭和五三年二月二三日道交法一二七条一項、一二九条二項に基づき反則金五〇〇〇円の納付を公示通告したこと、右反則行為の内容は、控訴人が昭和五三年一月一八日午後二時四五分頃大阪市天王寺区味原町六の一において自家用貨物自動車(大阪四五五九一―七〇。以下本件貨物自動車という。)を道路の左側端に沿つて駐車した(道交法四七条二項違反)というものであることは当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第一、第二号証、原審証人森本博、同森山秀範の各証言及び原審における控訴人本人尋問の結果によれば、前記日時場所において天王寺警察署勤務警察官森本博は、前記違反事実を現認し、控訴人を反則者と認めて交通反則告知書(甲第一号証)を作成して交付しようとしたところ、控訴人はその受領を拒んだこと、翌一月一九日午前一一時過頃控訴人は違反事実を認め反則金納付による処理手続を受けることを希望したので、天王寺警察署警察官森山秀範は同署において即座に前記告知書を完成させて控訴人に交付し(もつとも告知書には「告知・交付日時 昭和五三年一月一八日午後五時〇〇分」と記載されたまま訂正されていなかつた。)、控訴人は同日仮納付金五〇〇〇円を納付したことが認められる。
二 控訴人は、本件通告処分で反則行為とされる違法駐車をしたのは控訴人ではないので、右通告処分は取消されるべきであると主張し、被控訴人は、通告処分は行政事件訴訟法の取消訴訟の対象となる行政処分ではない旨主張するので、以下検討する。
交通反則通告制度(道交法第八章一二五条以下)は、増大する大量の道路交通違反事件に対し、これをすべて刑事手続で処理することによる時間と労力を節約し、大量の道交法違反者に事案の軽重を問わず刑罰(特に罰金刑)を科しすべて犯罪者として処遇することによる刑罰効果の減殺を防止し、交通政策上のマイナスを避け、もつて大量の道交法違反事件を簡易迅速に、かつ事案の軽重に応じて合理的に処理するために設けられた制度である。この制度は、道交法違反行為について刑事手続による処理を原則としつつ、その例外として、道交法違反の行為のうち定型的処理に親しまないもの、危険性が高く悪質なもの等を除外した一定の行為を反則行為と定め(道交法一二五条一項)、反則行為をした者であつて悪質又は危険性が高いと思われる者を除外した者を反則者と定め(同条二項)、警察官は反則者を認めたときはすみやかに反則行為の要旨、種別等を告知し(同法一二六条一項)、警察官から報告を受けた警察本部長は告知を受けた者が反則行為をした反則者であると認めるときはその反則行為が属する種別ごとに定額で定められている反則金の納付を書面で通告し(同法一二七条一項)、通告を受けた者は、通告を受けた日の翌日から一〇日以内に所定のところへ反則金を納付したときは当該通告の理由となつた反則行為にかかる事件について公訴提起されないことになり(同法一二八条)、反則金を納付しないで右納付期間を経過したときは当該反則行為にかかる事件について公訴提起されることになる(同法一三〇条)。この反則金は、もとより納付が強制されるわけではなく、任意に納付すれば刑事訴追(公訴提起)ができなくなるだけであり、その性質は行政上の一種の制裁金(強制力がない点で過料と異なる。)と解され、あくまで違反事実を争つて処分に服したくない者は、通告どおりに反則金を納付しないでいれば、原則に戻つて刑事手続が開始されることになる(同法一三〇条)。そうすると、道交法一二七条一項による警察本部長の通告処分は、通告を受けた者に対し反則金を納付する機会を与え、当該違反行為について交通反則通告制度による簡易迅速な事件処理を受ける機会を与えるだけの一種の行政的措置に過ぎず、これに何らかの効果が付与される行政処分とは認められない。もつとも通告によつて反則金の納付が強制されないといつても、違反に問われた者は、通告の理由となつた違反事実の認定に不服があるにもかかわらず違反事実を承認して反則金を納めるか、反則金を納付しないで刑罰を科される危険をおかして争うかの選択に迫られ、法律に暗い一般国民は不本意ながら警察官限り違反事実の認定を承認せざるを得ず、事実上反則金の納付が強制されることにならないかとの疑問もある。しかし通告を受けた者の刑罰を科されるかもしれないという危険は、本来警察官から違反事実についてそのような認定(嫌疑)を受けていることに起因するものであつて、通告を受けた者が刑罰の危険を避けて反則金納付を選択したからといつて、通告によつてこれを事実上強制したことにはならない。さらに通告処分が警察官限りの認定を前提としていること、これに何らかの効果がともなうことを認めないわけにはいかないこと等を理由に手続の公正さを担保するために、通告処分に対する不服申立の途を認めるべきであるとの見解もある。しかし、これを行政事件訴訟法に基づく抗告訴訟の対象と認めると、その審理の対象は本来刑事手続で審理されるべき違反(犯罪)事実の存否であること、通告処分が行政訴訟で取消された後に公訴提起されると同一の違反事実の存否を刑事と民事の両手続で審理することになること、行政訴訟は当然執行停止の効力がないので納付期間内に反則金が納付されない場合、通告処分取消の行政訴訟と公訴提起による刑事手続が同時に進行することも予想され、その際双方の手続が相互にどのような影響を及ぼすことになるのか困難な問題が生ずる等様々な矛盾不合理が生ずる。これらのことは、結局通告処分が行政事件訴訟法に基づく抗告訴訟の対象になじまないことを意味し、現に交通反則通告制度の立法審議の過程においても、通告は行政不服審査法や行政事件訴訟法の対象とはならない旨立案当局によつて説明され、そのため通告処分に対する不服申立の途を同一制度内にもうけることが検討されたこと(結局矛盾を克服できず迅速処理に反する等の理由で実現に至らなかつた。)もこれを裏付けるものである。通告処分は、一般の行政行為が公定力を有するのと同様厳格な要件を満たさなければこれを当然無効として取扱い、自由に取消すことができないという意味では行政処分といえるとしても(したがつて非反則者を反則者と誤つて通告した後警察本部長がこれを取消し、公訴が提起されたからといつて、起訴が常に有効となるわけではない。)、抗告訴訟の対象となる行政処分には該当しないと解すべきである。もつとも、そうすると本件のように通告を受けた者が既に反則金を納付している場合、警察本部長(処分者)の側で道交法一二七条二項を類推し、通告処分を取消して反則金を返還しない限り、通告を受けた者の側から通告の理由となつた違反事実が存在しないことを争うことができなくなるが、本制度の中にそのような不服申立の制度が認められていない以上、反則金の返還を求める民事訴訟によるほかはなく、抗告訴訟をもつてその取消を求めることはできないといわなければならない。
なお、本件通告処分及びその前後の状況については原判決理由説示中原判決六枚目表八行目「成立に争いのない甲第一号証」から同九枚目裏一行目までと同一であるから、これを引用する。控訴人がその主張のごとく違法駐車をしていないとしても、右事実によれば、控訴人は自己が本件通告処分の理由となつた違法駐車をしていないことを熟知しながら右反則行為を認め、敢えて反則金を納付したことになるのであつて、反則金を納付するにつき思い違いがあつたとか、法律の誤解があつたなどというような己むを得ない事由があつたわけではない。現行犯逮捕され早期に身柄を釈放されることが敢えて犯罪事実を認め、ひいて反則金を納付する動機となつたとしても、前記引用にかかる事実認定のもとでは現行犯逮捕は適法と認められ、控訴人が一旦反則金を任意に納付しておきながら(すなわち違反行為を認めておきながら)、本訴においてそれが人違いであつたなどと主張すること自体、何らこれを救済すべき正当な理由を見出し難い。
三 以上によれば、本件通告は行政事件訴訟法に定める取消訴訟の対象となる行政処分にはあたらず、したがつてその取消を求める控訴人の本件訴は不適法として却下すべきである。よつてこれと異なる原判決を取消し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 朝田孝 岨野悌介 大石一宣)
原審判決の主文、事実及び理由
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者双方の申立
原告は「一、被告大阪府警察本部長が原告に対し昭和五三年二月二三日付でなした通告はこれを取消す。二、被告大阪府は原告に対し五〇万円およびこれに対する昭和五三年三月一七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。三、訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに二項につき仮執行の宣言を求め、本案前の申立として被告大阪府警察本部長は「原告の請求を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を、本案につき被告らは主文と同旨の判決を求めた。
第二原告の請求の原因
一 1 被告大阪府警察本部長は、昭和五三年二月二三日付で原告に対し、道路交通法一二七条一項、一二九条二項に基づき、原告が昭和五三年一月一八日午後二時四五分頃大阪市天王寺区味原町六の一において自家用貨物自動車(大阪四五五九一―七〇。以下、本件自動車という。)を道路の左側端に沿つて駐車せず、歩道上に駐車した(道路交通法四七条二項該当)として、反則金五、〇〇〇円の納付を公示通告した。
2 しかしながら、右違法駐車をした者は、小見山勇であつて、原告ではない。原告は、当時普通乗用車(コロナマークII)を運転していたものである。
3 よつて、本件通告は違法であるから取消されるべきである。
二 1 原告は、昭和五三年一月一八日午後四時頃、前記一、1記載の違法駐車をしたとの被疑事実で大阪府警察所属の警察官に現行犯逮捕され、その反則金五、〇〇〇円の仮納付直後の翌一九日午前一一時三五分頃に釈放された。
2 前叙のとおり右違法駐車をした者は小見山勇であつたのであるが、大阪府警察所属の警察官である森本および森山らは、誰が違法駐車したかの点につき確認もせず、頭から原告が反則者であるときめつけて現行犯逮捕に及んだもので、右現行犯逮捕自体、原告が反則行為を犯したと疑うに足りる相当な理由があつたということができない違法なものである。しかも、森本警察官は、原告から運転免許証の提示を受け、原告の氏名、住所、勤務先等を記録していたのであるから、原告が逃亡する虞はなく、また駐車違反の事実は同警察官において現認していたのであるから、罪証隠滅の虞もなかつたものである。
したがつて、本件現行犯逮捕はその理由も必要性もない違法な逮捕であつた。
3 そのうえ、小見山勇が昭和五三年一月一八日午後五時頃天王寺警察署へ出頭し、警察官に対し「自分が違法駐車をした」旨供述したのであるから、この時点で事実の確認をすれば、原告の逮捕が誤認逮捕であつたことが容易に判明したはずである。しかるに、これを怠り違法な逮捕を継続した。
4 原告は、本件現行犯逮捕により、人身の自由を故なく奪われ多大の精神的苦痛を受けたにとどまらず、原告と工事請負契約の注文主との間の信頼関係も破壊される危険が生じ、その回復にも多大な精神的苦痛を受けた。
原告の受けた精神的苦痛を慰藉する金額として五〇万円が相当である。
5 よつて、被告大阪府に対し右金員およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五三年三月一七日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三被告大阪府警察本部長の本案前の主張
被告大阪府警察本部長の行なつた本件通告は、反則金の納付を通知する行政上の措置であり、反則者に対しなんら反則金の納付を義務づけるものではなく、反則者がこれを任意に納付すればその件につき公訴の提起がなされないとの効果を生ずるに過ぎないから、行政事件訴訟法の取消訴訟の対象となるいわゆる行政処分にはあたらない。
したがつて、原告の被告大阪府警察本部長に対する訴は不適法であり、却下されるべきである。
第四被告らの本案に対する答弁
一 請求の原因一、1記載の事実は認める。
同一、2記載の事実は否認する。
二 同二、1記載のうち、逮捕時刻を除くその余の事実は認める。逮捕時刻は午後二時五五分頃である。
同二、2および3記載の事実は否認する。
同二、4記載の事実は争う。
第五証拠関係<省略>
理由
一 被告大阪府警察本部長の本案前の主張について
同被告は、「本件通告は、原告に反則金納付を義務づけたものではないから、行政事件訴訟法の取消訴訟の対象となるいわゆる行政処分にはあたらない。したがつて、原告の同被告に対する訴は不適法であり、却下されるべきである。」と主張するので、この点につき判断する。
本件通告は、道路交通法一二七条一項、一二九条二項によりなされたもので、反則者に対し通告にかかる反則金の納付を一方的に義務づける処分(ただし、その納付を強制する手段は認められておらず、反則者に対し自然債務類似の義務を負わせ、反面国家に反則金を受納しうる地位が認められる。)であるところ、刑事手続で争う余地のない本件においては行政事件訴訟法三条二項にいういわゆる行政処分に該当するというべきである。
したがつて、同被告の本案前の主張はこれを容れることはできない。
二 請求の原因一、1記載の事実、同二、1記載のうち、逮捕時刻を除くその余の事実は当事者間に争いがない。
三 そこで、本件現行犯逮捕ならびにその前後の状況についてみると、成立に争いがない甲第一号証(交通反則告知書)、第二号証(反則金仮納付書)、乙第一号証(実況見分調書)、現場附近を撮影した写真であることについては争いがなく、撮影年月日が昭和五三年一月一八日であることが明らかな写真である検甲第七号証の一ないし六、証人森本博、同森山秀範の各証言、証人小見山勇の証言の一部、原告本人尋問の結果の一部によれば、
(1) 天王寺警察署の警察官森本博は、舟橋町警ら連絡所において警ら活動中の昭和五三年一月一八日午後二時一〇分頃、大阪市天王寺区味原町六の一にある飲食店「栄鮓」前の東側歩道上に荷物を積んだ本件自動車が違法駐車されているのを現認し、午後二時二五分頃再度同所を通りかかつたときも本件自動車が同様の違法駐車の状態にあり、その直前には「栄鮓」の改装工事のため来ていたペンキ屋がライトバンを停車させ、かんの積み降ろしをしていたので、ペンキ屋に対し「荷物の積み降ろしが済んだらライトバンを動かすように。また本件自動車の運転手にも本件自動車を他の場所へ移動させるよう伝えてもらいたい。」旨警告し、ペンキ屋は、その旨を「栄鮓」の改装工事に来ていた株式会社治久丸建設興業(本件自動車の実質上の所有者。以下、単に会社という。)の者に伝えた。
(2) 森本は、午後二時四五分頃三度右現場に来たところ、本件自動車が依然として前同様の違法駐車の状態にあつたので、本件自動車にステツカー(呼出状)を貼つた。
(3) 原告は、会社の専務取締役であり、「栄鮓」の改装工事のため部下四名と共に本件自動車を含め三台の自動車で来ていたが、警察官が本件自動車にステツカーを貼つていることを知らされ、「栄鮓」の表へ出て来て、森本に対し「すぐのけますわ。」と言い、求めに応じて免許証を提示し、その質問に「わたしが停めましたんや。」と答えていたが、森本が交通反則告知書を作成し始め、原告の住所氏名の確認をしようとするや、森本が本件違法駐車を見逃してくれないことを知り、「先程一度注意されてるんやから仕方がないんやけどな。」と口に出しながらも、右確認に応じないで、「勝手にしなはれ。」「交通切符にサインもせん。」「強制捜査するならやつてみろ。」と言い出した。
(4) そこで、森本は、午後二時五五分頃原告に対し現行犯逮捕する旨告げ、前記連絡所まで同行するよう求めたところ、原告が「わしや忙しいんやから行かん。あとになつたら行つたる。」と言つてこれを拒否するので、天王寺警察署へ無線で応援を要請した。
(5) その間、原告は、部下である大工の小見山勇に命じて現場にある本件自動車等の写真を撮らせ、本件自動車を現場より二〇メートル余り西方へ移動させた。
(6) 森山秀範巡査部長は、森本の要請で約一〇分後に現場に到着し、原告に対し「お宅停めたの。」と尋ねたところ、原告は、「そうでんが。私が停めました。」と認めながら、他方で「ほかにも違法駐車の車があるじやないか。」と喰つてかかつた。
(7) そこで、森山は、原告に指示して、既に現場より二〇メートル余り西方に移動されていた本件自動車を附近の元町モータープールへ移動させるとともに、部下の警察官に対し他の違法駐車の自動車の取締を指示したところ、小見山が出て来て、自分の右ポケツトからキーを出し、現場より二〇メートル余り西方に停めてあつた普通乗用車(コロナマークII)を運転して元町モータープールへ移動させた。
その際、小見山は、森山の質問に対し「右自動車(コロナマークII)は自分の車である。」と述べた。
(8) 森山は、原告に対し「取調べに応じるよう」求めたが、原告は「令状もつて来んかつたら調べなんかに応じまへんで。」とこれを断つていた。森山は、原告とのやりとりの傍ら、現場にいた会社の職人二、三人に対して「(君らは)本件自動車を違法駐車したか。」と尋ねてみたが、皆「違います。」と答えた。
(9) 小見山は、原告が天王寺警察署へ連行されるまでの約一時間現場附近におり、原告と警察官とのやりとりを見ておりながら、警察官に対し「自分が本件自動車を違法駐車した。」旨の申述をしたことはない。
(10) 小見山は、原告が連行された後も「栄鮓」の改装工事に従事していたが、森本に本件自動車を任意提出するよう求められ、本件自動車を運転して天王寺警察署へ行つた際警察官から取調を受け、本件自動車を違法駐車した者は原告ではなくて、自分である旨告げた。
(11) 原告は、天王寺警察署へ連行されてからは、「本件自動車を違法駐車した者は自分ではない。」と否認していたが、翌一九日午前中に反則金を仮納付し、午前一一時三〇分頃釈放された。
(12) 原告は、これまでにも何回か交通違反を犯したことがあり、その際否認することが多かつた。
以上の事実が認められ、右認定に反する証人小見山勇の証言部分および原告本人尋問の結果部分は採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。
四 右認定の(1)ないし(9)の事実、殊に、原告が当初警察官らに対し本件自動車を違法に駐車させていたことを認めていたこと、警察官が現場で事情聴取したときには、原告の外に会社の従業員で本件自動車を違法駐車させた者は見当らず、就中小見山は、警察官に対し普通乗用車(コロナマークII)が自己の自動車である旨述べ、原告と警察官との約一時間にわたる現場でのやりとりの間も、本件自動車を違法駐車させた者は自分である旨の申述をしていないことに徴すれば、本件自動車を違法に駐車させた者は原告であつたとみるのが相当であり、また右認定の事案の推移をみれば、原告を現行犯逮捕するについては、その理由も必要性もあつたと認められるから、本件現行犯逮捕は適法なものであつたというべきである。
原告は、本件自動車を違法に駐車させた者は原告ではなくて、小見山勇であり、原告が乗つていた自動車は普通乗用車(コロナマークII。前認定のもの。)である旨主張し、これに副うものとして、前認定の(10)、(11)の事実ならびに証人小見山勇の「違法駐車の処理を原告に任せておいた。多勢の警察官が来て、原告を逮捕すると言い出したので、こわくて本当の事が言えなかつた。」旨の証言等があるが、前認定の(3)ないし(9)、(12)の事実ならびに原告が逮捕され連行されて行つたにもかかわらず、小見山が原告のため積極的に天王寺警察署へ出頭したわけではないこと((10)の事実の一部)に照らし、到底採用することはできないから、右主張を容れることはできない。
五 そうすると、本件自動車を違法に駐車させた者は原告でないこと及び本件現行犯逮捕が違法であることをそれぞれ前提とする原告の被告らに対する各請求は、その余の事実について判断するまでもなく失当であるからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。